イエス様の受難と復活は、イスラエルの春の祭り期間中の出来事です。受難週、受難日、イースターは、出エジプトを記念する種なしパンの祭り、過越の祭り、初穂の祭りと関係しています。
イエス様が十字架にかかられたのは過越の祭りの準備の日、イスラエルの全世帯が家中からパン種(罪の象徴)を取り除き、エルサレムで羊を屠って神に献げる時間帯でした。イエス様がよみがえられたのは、初穂の祭りの日でした。
主の十字架の死と復活によって種なしパンの祭りが成就し、新しい過越が実現しました。それは、罪と悪魔の支配から解放され、神の国に入るための過越です。
イエス様の受難日については、西暦(太陽暦グレゴリオ暦)30年4月7日説と33年4月3日説が有力です。2023年の教会暦では、主の死と復活の記念日が30年4月7日説と同じ日にちになっています。
この記事では、「西暦30年4月7日受難日説」に基づいて、イエス様最後の1週間の出来事を、祭りの内容と合わせて詳しく見ていきます。
(1)暦と祭りについての予備知識
・イスラエルの暦は太陰暦(1か月が月の満ち欠けで決まる。新月→上弦の月→満月→下弦の月→新月)です。1か月は29日または30日で、1年は354日しかないため、毎年、季節がずれていきます。そこで閏年(13か月ある)を設け、季節を合わせます。ですからイスラエルの祭りを太陽暦に当てはめると、月日と曜日が毎年大幅に変わり、教会の受難週・受難日とは一致しません。
・イスラエルの1日は日没から始まり日没で終わるので、受難日を西暦30年説に当てはめると、AD30年4月6日(木曜日)の日没~4月7日(金曜日)の日没までです。
・イスラエルの1年は春から始まります。出エジプト以降、神が定められた宗教暦では、第一の月をアビブの月(申命記16章)と呼びます。バビロン捕囚後、ユダヤ人は秋から始まる政治暦(民間暦)も採用し、アビブの月をニサンの月と呼ぶようになりました。
・春の祭りには、種なしパンの祭り、過越の祭り、初穂の祭り、五旬節の祭りがあります。
種なしパンの祭り・・・宗教暦の第1の月(アビブ/ニサン)15~21日。
(出エジプト記12:15~20、レビ記23:5~8、民数記28:16~25、申命記16:1~8)
・アビブ14日には町中からパン種を取り除き、15日~21日まで7日間、種(罪の象徴)の入らないパンを食べる。1日目(15日)と7日目(21日)に神殿で聖なる会合を開く。
・15日に過越の祭りがあるので、種なしパンの祭りを過越の祭りと呼ぶこともある(ルカ22:1)。
・パン種を取り除いて準備する14日を含めて種なしパンの祭りと言うこともある(ルカ22:7、申命記16:4)。
・種なしパンの祭りの期間中に初穂の祭りがある。
過越の祭り・・・アビブ14日の夕方に羊を屠り、15日の夜、出エジプトを記念する儀式的な食事をする。翌朝は神殿で聖なる会合を開き、祭司が動物犠牲を捧げる。
初穂の祭り・・・種なしパンの期間中の、安息日明けの日=週の初めの日(日曜日)に、大麦の収穫の初穂を神に捧げる。祭司が初穂の束を揺り動かすなら、イスラエル民族が神に受け入れられる。
五旬節の祭り(ペンテコステ)・・・初穂の祭りから50日目。小麦の収穫が終わり、初穂の小麦粉で作った種入りのパン2個を神に捧げる。
過越とは
・イスラエル民族は今から約3,300年前、エジプトを脱出する前夜、主の命令により羊を殺してその血を家の門柱と鴨居に塗り、焼いた羊肉と苦菜と種なしパンを食べました。血を塗っていなかったエジプト人の家では、長男が全員死の使いよって殺され、イスラエル人を奴隷として虐げてきた悪に対し、主が裁きを下されました。血を塗っていたイスラエル人の家は死の使いが過ぎ越して行き、いのちを取られた人はいませんでした。
・エジプトが裁かれ、エジプトの支配からイスラエル民族が救い出された出来事を記念し、子孫に継承するため、イスラエルでは現在でも各家庭で儀式的な晩餐(セデル)を行います。
(2)受難週の出来事(AD30年説に基づく)
第1日目 アビブ9日 過越6日前
AD30年 4月1日(土)日没~4月2日(日曜日)日没
ヨハネ12:1 イエスは過越の祭りの6日前にぺタニアに来られた。そこには、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロがいた。
・イエス様のために夕食が用意された。マルタの妹マリアが主の足にナルドの香油を塗り、イスカリオテのユダがマリアを非難。主は、香油はご自分の葬りの日のためであると言われた。
・安息日が明け、大勢の群衆がユダヤ地方からベタニアにやって来て、よみがえったラザロを見てイエス様を信じた。祭司長たちはラザロも殺そうと相談。
・翌朝(日曜日)、イエス様はロバの子に乗り、エルサレムに向かわれた。弟子たちは喜び、大声で神を賛美し、「祝福あれ、主の御名によって来られる方、王に」と叫んだ(ヨハネ12章、マルコ11章)。都をご覧になった主は、将来の神殿崩壊を予見され、涙を流された(ルカ19:37~44)。
・過越の祭りの前に身を清めるために、大勢の人が地方からエルサレムに上って来ていた(ヨハネ11:55)。ラザロのよみがえりの目撃者たちが証言し続けたので、群衆はなつめ椰子(しゅろ)の枝をふりながら、「ホサナ。祝福あれ、主の御名によって来られる方に。イスラエルの王に。」「ホサナ、ダビデの子に」と主を歓迎した。
棕櫚の枝を振るのはイスラエルのメシアを神殿に迎える行為で、本来は秋の仮庵の祭りで行い、春には行わない。後に、この日は棕櫚の主日と呼ばれるようになった。
・イエス様は「羊の門」を通って神殿に入場。羊の門は、いけにえの羊を入場させるための門。イエス様は贖いのために「神の子羊」として入場された。
第2日目 アビブ10日 過越5日前
4月2日(日曜日)日没~4月3日(月曜日)日没
・いちじくの木を呪う(マルコ11:12)。
・神殿から商売人を追い出し、神の宮をきよめる(マルコ11:15~17)。
・アビブ10日は過越の祭りで捧げる羊を選別する日。イスラエル民族は家ごとに1歳の雄の羊を選び、その日から14日の夕暮れまで見守り、傷や問題がないかを吟味する(出エジプト12:3~11)。
イエス様も10日から14日まで、宗教家たちとの対決や裁判を通して、罪の無い神の子羊であるか吟味されました(マタイ21~23章、マルコ11~12章、ルカ20章)。
第3日目 アビブ11日 過越4日前
4月3日(月曜日)日没~4月4日(火曜日)日没
・いちじくの木が枯れる。信仰の祈りについて教え。
第4日目 アビブ12日 過越3日前
4月4日(火曜日)日没~4月5日(水曜日)日没
アビブ11~13日までの出来事 (ルカ20~21章、マタイ21~25章、マルコ13章)
宗教指導者たちからの質問攻撃に見事に回答され、完璧な神の小羊であることを証明
・祭司長、律法学者たち、長老たち 「何の権威によってこんなことをしているのか?」
・パリサイ人、ヘロデ党 「カイザルに税金を納めることは律法にかなっているか?」
・サドカイ人 「7人兄弟の妻は復活したら、誰の妻になるのか?」
・律法学者(パリサイ人) 「1番大切な戒めは・・・」
・イエス様からの質問 「どうしてキリストはダビデの子なのか?」
偽善的な律法学者、パリサイ人に対する非難(マタイ23章)
天の御国に入る人・入れない人のたとえ話
ぶどう園の悪いしもべ、ぶどう園の2人の息子、王子の結婚披露宴に招待された人
終末についての教え(マタイ24~25章、マルコ13章、ルカ21章)
世の終わりと再臨のしるし、神殿崩壊とエルサレム滅亡預言、偽メシア、戦争、飢饉、地震、迫害、再臨後の裁きのたとえ話(マタイ25章)
第5日目 アビブ13日 過越2日前
4月5日(水曜日)日没~4月6日(木曜日)日没
(マタイ26:1~16、マルコ14:1~11、ルカ22:1~6)
・イエス様が弟子たちに十字架刑を予告。
・祭司長たち・長老たちが大祭司の邸宅でイエス様を殺す相談。
・ある女性がベタニアのシモンの家でナルドの香油を主の頭に注ぐ。弟子たちが非難するが、主は「埋葬の準備」であると言われた。
・イスカリオテのユダが祭司長たちにイエス様を売り渡すことを申し出、銀貨30枚を受け取る。
第6日目 アビブ14日 過越1日前
4月6日(木曜日)日没~4月7日(金曜日)日没 (ヨハネ13~19章)
過越しの食事の準備のため、ペテロとヨハネが遣わされる。
マルコ14:12 種なしパンの祭りの最初の日、すなわち、過越の子羊を屠る日
ルカ22:7~13 過越の子羊が屠られる、種なしパンの祭りの日が来た。
マタイ26:17~19 種なしパンの祭りの最初の日
<木曜日の夜>
過越の祭りの食事が行われるのは15日の夜ですが、イエス様は1日早く、14日の夜に弟子たちと食事されました(最後の晩餐)。祭りの時には、大勢のユダヤ人が地方からも離散の地からもエルサレムに上って来るので、部屋数が足りず、前日に過越の食事をとることもあったそうです。
イエス様の過越の食事は、エジプトに下される裁きを免れてカナンの地に入ったことを記念する食事ではなく、世の終わりに下される神の怒りと裁きを免れ、神の国を相続するための過越の食事です。主は世の罪を取り除く「神の子羊」として屠られようとしていました。
最後の晩餐 ヨハネ13:1~
・弟子たちの足を洗い、最も大切な戒め、愛し合うことを自ら実践し、教える。
・イスカリオテのユダの裏切りを予告、ユダが出て行く。
・種なしパン(死と復活を暗示する特別な物)と「贖いの杯」と呼ばれるぶどう酒により、新しい契約を結ぶ。→ 聖餐式の原型(パン:体、ぶどう酒:血)
食事の席での教え ヨハネ13~14章
・永遠の住いを備えに行く。わたしが道・真理・いのち。父と子はひとつ。
・主を信じる者は主と同じわざを行う。御名によって求めるなら主がそれをなさる。
・もう1人の助け主・聖霊を与える。父のもとに行き、また戻って来る。
ゲッセマネへ向かう道での教え ヨハネ15~16章
・ぶどうの木に枝がとどまるなら実を結ぶ。新しい命令(主の愛にとどまり、互いに愛し合う)を与える。
・世から選び出し、任命し遣わす。迫害予告。真理の御霊が罪・義・裁きについて明らかにし、教える。
・ペテロのつまずきを予告。
大祭司として父なる神に祈る ヨハネ17章
・キデロンの谷を渡ってオリーブ山に登る前、おそらく黄金門の前で。
ゲッセマネの園での祈り
逮捕と夜中の裁判 ヨハネ18:1~27
・ユダの手引きにより捕えられ、大祭司アンナスの邸宅、大祭司カヤパの邸宅に連行される。
・サンヘドリン(ユダヤ最高法院)の裁判を受け、神の子と自称し、神を冒涜した罪により死刑判決。神の子であることは事実なので冤罪(裁判の詳細は史上最大の冤罪を参照)。
<金曜日> ピラトの裁判と十字架刑、死と埋葬 ヨハネ18:28~19章
いけにえの羊は14日まで吟味され、その日の夕暮れに屠られます。イエス様も14日に裁判を受け、罪の無い神の子羊として十字架につけられました。
・早朝、ローマ総督ポンテオ・ピラトの官邸で裁判を受けるが無罪判決。ピラトは鞭打ちだけで釈放しようとしたが、ユダヤ人たちの暴動を恐れ、やむなく十字架刑を宣告。
・朝9時頃、十字架につけられる。十字架上でとりなしの祈りをし、午後3時頃、息絶える。
・百人隊長が「この方は本当に神の子であった」と証言。
・アリマタヤのヨセフとニコデモにより、亜麻布に包まれ、墓に納められる。
主は十字架上でも一切罪を犯さず、ご自分が完璧な「神の子羊」であると証明されました。
<イエス様は、イスラエル全家が羊を屠る時間帯に死なれた>
イエス様が捕らえられ、裁判にかけられ、死なれ、葬られた日は、過越の祭りの備え日であり、安息日の備え日でもあり、アビブの14日、金曜日の日没前でした。
ヨハネ18:28 さて、彼らはイエスをカヤパのもとから総督官邸に連れて行った。明け方のことであった。彼らは、過越の食事が食べられるようにするため、汚れを避けようとして、官邸の中には入らなかった。
ヨハネ19:14 その日(ピラトが裁判の席に着いた日)は過越の備え日で
ヨハネ19:.31 その日は備え日、翌日の安息日は大いなる日だったので、(ユダヤ人たちはイエス様の死体を十字架から取り下ろしてほしいと願い出た)
ヨハネ19:42 その日はユダヤ人の備え日であり、(アリマタヤのヨセフとニコデモがイエス様を墓に納めた)
ルカ23:54 この日(アリマタヤのヨセフが主を墓に収めた日)は備え日で、安息日が始まろうとしていた。
アビブ14日は過越の祭りの準備の日です。イスラエル民族は、家中からパン種を取り除き、夕暮れにいけにえを神に捧げます(レビ23:5)。申命記16:1~8によると、イスラエル民族は種なしパンの祭りの初日の夕方、日の沈むころ、主が御名を住まわせるために選ばれる場所(エルサレム)で過越の生贄として羊を屠り、調理して夜(アビブ15日)食べることになっています。
いけにえを捧げるためにエルサレムに集まっていた民衆は、イエス様が十字架を担いで処刑場まで歩き、ゴルゴダの丘で礫刑にされるのを目撃しました。その後、家族ごとに過越の祭りの晩餐を行い、小羊の肉と種なしパンを食べ、ぶどう酒を飲み、先祖たちの出エジプトを記念しました。
彼らは、イエス様が「世の罪を取り除く神の子羊」であり、「新しい過越のいけにえ」として、罪の奴隷と悪魔の支配から自分たちを解放するために死んでくださったことを知りませんでした。
第7日目 アビブ15日 過越の祭り当日
4月7日(金曜日)日没~4月8日(土曜日)日没
・大いなる安息日、種なしパンの祭り、過越の祭りの日、聖なる会合の日
・イエス様の霊は父の御手に帰り、からだは墓に葬られ、たましいはよみにおられました。
・祭司たちはこの日、神にささげ物を献げ、イスラエルの成人男性は皆、神の前に出ることが命じられていました。
レビ23:6~8 この月の十五日は【主】への種なしパンの祭りである。七日間、あなたがたは種なしパンを食べる。最初の日に、あなたがたは聖なる会合を開く。いかなる労働もしてはならない。七日間、食物のささげ物を【主】に献げる。七日目に聖なる会合を開く。あなたがたは、いかなる労働もしてはならない。」
・もしこの日、ローマ兵が呪われた者として主を木に掛けたら、祭司長や律法学者が心配したように(マルコ14:2)民衆が騒ぎを起こしていたかもしれません。また、祭司長たち・律法学者たちには、早朝にピラト官邸に押しかけたり、ゴルゴタの丘でイエス様をののしったりする(マルコ15:29~32)時間はありませんでした。ですから、イエス様が死なれたのは過越の祭りの日ではありません。
出エジプト12:17 あなたがたは種なしパンの祭りを守りなさい。それは、まさにこの日に、わたしがあなたがたの軍団をエジプトの地から導き出したからである。あなたがたは永遠の掟として代々にわたって、この日を守らなければならない。
「種」は「罪」を表します。主を信じる者にとっての「種なしパンの祭り」は、主の死によって罪の無い者(義人)とされ、不信仰なこの世から導き出されたことを祝う祭りであると言えます。
第8日目 アビブ16日 初穂の祭り
4月8日(土曜日)日没~4月9日(日曜日)日没
・初穂の祭りは安息日の翌日(日曜日)、主の死から3日目です。主は日曜日の早朝、死者の中から初穂としてよみがえられました。
・この日に、大麦の初穂(朝一番に太陽光線を浴びた大麦)を収穫し、祭司の所に持っていきます。初穂の束を祭司が主の前で揺り動かすなら、イスラエル民族が主に受け入れられます。これは代々守るべき永遠の掟です(レビ23:10~14)。
初穂の祭りは、主が復活されたように、義人も復活して神の国に受け入れられることを予表しています。
(3)キリストのからだと血による新しい過越
・イエス様は、出エジプトの過越ではなく、神の国に入るための新しい過越を実現するため、「神の子羊」として羊の門を通ってエルサレムに入場されました。そして民衆から、約束されていたメシア、イスラエルの王、ダビデの子として歓迎されました。
・主はアビブ14日の夜(出エジプトを記念する過越の祭りの前日)に弟子たちと新しい過越のための食事を食べ、ご自分のからだを表すパンと血を表すぶどう酒で、新しい契約を結ばれました。(参考:御国を継がせる霊的いのちの糧)
・律法学者や祭司長たちはイエス様を殺す口実として罪や問題を見出そうと試みましたが、できませんでした。ユダヤ人と異邦人の裁判でも罪は見当たらず、主が「完全な神の子羊」であることが証明されました。
・過越の準備の日である14日の夕暮れ、イスラエル全家のために羊が屠られる頃、イエス様は息を引き取られました。
・アビブ15日から1週間、種無しパンの祭りが続き、15日と21日には聖なる会合が開かれます。種なしパンの祭りは、主の流された血により、信じる者の罪が贖われたことを祝い、喜び、感謝する祭りと言えます。
・主はアビブ16日に復活されました。初穂の祭りは、主が人類の初穂として復活されたことを祝い、義人の復活を期待する祭りとなりました。
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